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 解決事例  
退職させてもらえない〜在職強要
 

 最近、労働者側からのご相談で増えているのが、「会社を辞めたいのに、会社(社長)が退職を認めてくれない」という、内容としては、ごくシンプルなご相談なのですが、退職を申し出ると、社長や上司に恫喝されたり、何ら法的根拠のない金銭的なペナルティーを、さも正当な金銭請求であるかのごとく請求されたりと、会社側の対応が悪質なケースが目立ちます。

 法律的に言いますと、まず大前提として、労働者には「職業選択の自由」(憲法第22条)があり、そのあらわれとして「退職の自由」もあるといえます。
 ただ、「退職の自由」があるからといって、完全に自由に退職できるわけではなく、民法や労働法の規定において、一定の制限がされています。

■ 期間の定めのある労働契約の場合

 あらかじめ契約期間に定めのある労働契約の場合については、まず民法上、原則として、労働者には契約期間中、労務を提供する義務があり、重い病気等で働けない状態になったときなど「やむを得ない事由」がある場合を除いて、期間の途中で退職することはできません。
 また「やむを得ない事由」が労働者側の過失によって生じたものであるときは、労働者は使用者に対して、生じた損害を賠償する責任を負うとされています(第626条及び第628条)。

 ただ、退職が認められないという拘束力のある契約期間については、民法上、最長5年とされていますが(第626条)、労働基準法は、これを、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、原則3年に制限しています(第14条1項)。
 さらに、労働基準法は第137条において、あらかじめ定めた契約期間が1年を超える場合は、一定の場合を除き、民法の規定にかかわらず、1年を超えた日以後はいつでも退職することができるとしています。
 このように、民法と労働基準法の規定が相違する時は、特別法である労働基準法の規定が、民法の定めに優先します。
 よって、期間の定めがある雇用契約の場合でも、ほとんどの場合、1年を経過していれば、いつでも退職することができると考えていただいてよいでしょう。

 仮に、1年を経過していない内に、労働者が、自己の一方的な都合によって仕事を辞めてしまったとしても、使用者は、代替人員を速やかに確保して損害の発生を抑えることができるケースがほとんどであり、労働者に対して、雇用契約の債務不履行責任に基づいて、高額の損害賠償義務が認められることは、実務的には、そうそう起こり得ることではありません。

■ 期間の定めのない労働契約の場合

 労働契約の期間に定めがない場合(正社員のほとんどはこれにあたります)は、いつでも労働者側は解約(退職)の申入れをすることができ、申入れの日から2週間を経過したときに雇用契約は終了(退職)となります(民法第627条1項)。
 ただ、「期間によって報酬を定めた場合」には、「当期の前半」に解約申入れをすれば、「次期」以後に雇用契約が終了(退職)となるとされています(民法第627条2項)。

 この点、完全月給制(遅刻、欠勤による控除なし)を前提にご説明しますと、給与の締め日までの1か月間が「当期」となりますので、締め日の15日以上前(1か月の前半)に退職の申入れをすれば、締め日をもって退職となりますが、締め日から15日以内(1か月の後半)の退職の申入れの場合には、締め日が到来しても退職できず、もう1か月先の締め日での退職となるというわけです。
 なお、実務上は、就業規則や雇用契約により、「従業員は、1か月前に退職の申し出をしなければならない」というような定めがされているのが一般的ですから(労使間の合意により、この程度の修正は許容されるものと考えられます。ただし、1か月を超える予告期間の定めについては無効になる可能性もあります)、退職申入れをしてから1か月後の退職となるケースが多いでしょう。

 ただ、以上のような規制はあるものの、「やむを得ない事由」がある場合は、直ちに退職することが可能であること(ただし、「やむを得ない事由」が労働者側の過失によって生じたものであるときは、労働者は使用者に対して、生じた損害を賠償する責任を負う)は、期間の定めがある場合と同様です(民法第628条)。

■ 胸を張って、自分の身を守る選択を

 以上のように、労働者側には、かなり広範に退職の権利、自由が認められていますから、「仕事を辞めたいのに、会社が退職を認めてくれない」という場合でも、ほとんどのケースでは、毅然と退職の申入れをすれば、しかるべき時期に退職をすることができます。

 退職を申入れると、社長や上司から恫喝、脅迫されるとか、辞める場合には会社から金銭的なペナルティーが科される(と、会社側から、さも正当な法的根拠があるかのようにいわれている)ようなケースでは、私たち弁護士が介入して、退職申入れをし、使用者側と退職にあたっての諸手続を折衝することもあります。
 このような悪質なケースにおいては、私たち弁護士ですら、非常に対応に苦慮するほど独自の価値観を頑として曲げない経営者も少なくなく、退職することや労働者との間のそれまでの経緯等々について、執拗に抗議、攻撃をしてきます。
 しかし、これまで、退職ができなかったケースは全くありません。労働者が辞めると言えば、法的に止めようがないのが実際なのです。
 退職することが法的に認められている場合に、労働者が罰金のようなものを課されることもありません。正当な権利行使に対し、制裁を科することは許されないのです。
 労働基準法第16条は、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めており、労働者の退職という「労働契約の不履行」についても、事前に違約金や損害賠償額の予定を合意しても、それは法的に無効であるという趣旨を明らかにしています。

 「自分が辞めたら同僚がものすごく大変な状態に陥るので申し訳ない」という場合もあるでしょうが、退職者の代替人員を確保するのは使用者の責任であり、労働者の側が心配せねばならないことではありません。
 胸を張って、自分の身を守るという選択をなさってください。